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元ホスト!? 異色の現代ラッパー釈迦坊主の魅力

MUSIC

ito

Written by ito

独特な存在感を放つラッパー・釈迦坊主 shaka bose

https://www.instagram.com/p/B91KNrCl2oq/

釈迦坊主は1992年生まれ、和歌山県御坊(ごぼう)市出身、現在は東京の新宿を活動拠点とするプロデューサー/ビートメイカー/ラッパーである。作詞、ビート製作、ミックス、マスタリングまでの全てを自らおこなうという才能的にも技術的にも稀有なミュージシャンだが、その楽曲は緻密に構成されているというより綺麗にまとまっていない不安定感が魅力である。また、美しく整えられた長髪に端正な顔立ちをもちつつも、一筋縄ではいかない風体はどこかカリスマ性を感じさせる。

まずは、筆者がおススメかつ最近にリリースされた楽曲をいくつか紹介したい。

 

釈迦坊主の楽曲

「DRAGON」(2020)

2020年2月22日にリリースされたEP。やや音割れさせたハードコアテクノのようなキックで始まる本曲。その上にオートチューンをかけたラップがのるも、騒々しさはなく、むしろ中盤からはハミングも取り入れたメロディアスな表現によって展開されていく。あくまでトラップのスタイルを主軸にしているが、所謂ギャングスタラップのような力強いアクセントは打たず、フラットで念仏のような神妙な気配を帯びている。

「Supernova (prid.shaka bose)」(2020)

2020年1月2日にリリースされたEP「NAGOMI」。その2番に収録される本曲は、震えた重低音が1・4・2・4と拍子をうつ上に、ややスピリチュアルな世界を感じさせる中~高音域のメロディがのるトラック。フックが滑らかに始まることから全体の曲調はゆったりしているかと思えば、ヴァース中には控えめなトーンながら多くの言葉が詰め込まれていて忙しい。また2フック1ヴァースというラップを削った構成だが、かえってそれがシンプルな展開を生んでおり、短い曲ながらも十分の聞きごたえを生んでいる。

釈迦坊主のライムは、ある意味では聞き取れないくらいが丁度よいのかもしれない。唱える呪文のようなヴァースからフックのメロディに抜けたときに、こちら側の脳が困惑したまま落ち着かされてしまうようなカオティックな心地よさが魅力的だ。自身の見出した真実をリリックに落としながら、あえてすべての言葉を聴いてもらわずとも良い、とりあえず頭を振ってくれという心意気を感じる。

 

聞こえてくる二重性と独自の世界観

ここで彼の生い立ちについて軽く触れると、思春期の頃にはヘヴィメタルやビジュアル系のコピーバンドをしていたそうで、16歳からは新宿歌舞伎町や大阪ミナミでホストとして生活。2010年頃から自身の製作したラップをYoutubeやニコニコ動画、SoundCloudなどにあげ、ライブにも参加するようになったという。当初、既存のストリートシーンの人々からは”ネットラッパー”として白い目で見られ、本人も上下関係のあるシーンに馴染めずにいたが、一方で自身は「ネットラッパーとしての自覚もなければ、ネットのシーンに対する愛もない」と語り、次第に自らの居場所を求めてイベントを主催するようになった。

実に現代的で、多様化した社会のラッパーではないだろうか。一時期のHIP HOP界隈にあったとされるストリート/ネットという二大潮流の境界はすでに消失している。リスナー達はすでにそのどちらをも現実のものとして、自らの生のうちに不可分に取り込んでいるからだ。とはいえ、これまでに築かれてきたジャンル的民族主義とその延長線上における発展がいまだに残っていることは良くも悪くも事実である。釈迦坊主はすでに存在するこうした文脈にリスペクトを抱きつつも染まることができず、流浪している。

だからであろうか、たとえアーティストとしてのヴェールが被せられたとしても、その根底には正直さがある。彼の音源は、重厚かつ深淵な、どこか遠い場所の儀式音楽を思わせるような側面と、一方で、その重さを払拭するように軽いノリで歌い切る側面が共存しており、彼自身の性格における二重性が表されているように感じられるのだ。内向きにも外向きにも寄らず、そのどちらの側面も取り込んで、「それが僕にとっての当たり前の事実なんです」と爽やかに提示しているように見受けられる。

釈迦坊主は自身について「インプットがめちゃくちゃオタク寄りで、アウトプットが軽いんです」と語る。それは社交的で前向きな外向的性格と、一方で自らの内部に巣食う世界観により深く沈殿していこうとする内向的性格の自然な共存を示している。また、そこで得られた自らの真実を他人に押し付けない軽やかな人間性が、彼の楽曲の尽きない魅力を生んでいると筆者には感じられるのである。

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