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バンクシーが監督した映画、ストリートアートのドキュメンタリー「Exit Through the Gift Shop」

ART/DESIGN

佐伯 慎太郎

Written by 佐伯 慎太郎 佐伯 慎太郎

街中でのグラフィティや落書き、近年では壁画広告など、様々な壁画のアートを紹介したばかりであるが(http://ore-media.com/art/mural-art/)、今回は、それにまつわる映画を紹介したい。「Exit Through the Gift Shop」である。

バンクシーが監督した映画「Exit Through the Gift Shop」

2010年に公開されたこの映画は、覆面芸術家として活動するバンクシーが初めて映画監督として世に出したドキュメンタリー映画だ。

当初は、映像作家であったティエリー・グエッタが覆面芸術家のバンクシーと知り合い、ストリートアートの実情をドキュメンタリー映画にしようとしていた。しかし、ティエリーの映像センスが絶望的であったため、バンクシー監督のもと逆にティエリーの活動をドキュメンタリー映画にまとめるという奇妙な構造の映画になっている。

映画の中には、バンクシー自身もインタビューを受ける側として登場するシーンが幾度もあったりと、ドキュメンタリーとしてリアリティが高く、しかし、ストリートアートに馴染みがない人にも飽きがこない、質の高い構成となっている。

映画「Exit Through the Gift Shop」は、オンラインだとYoutubeムービーやGooglePlayでも観れるほか、AmazonでDVDの購入も可能だ。

Youtubeムービー:https://www.youtube.com/watch?v=P0MOM4xFPUc

GooglePlay:https://play.google.com/store/movies/details?id=P0MOM4xFPUc

 

ストリートアートはコンテンツかコンテクストか

「Exit Through the Gift Shop」は、ドキュメンタリー映画ということもあり、ストリートアートの制作現場が生々しく撮られている。色々なストリートアーティストが登場し、自らのモチーフを街中のいたるところに刻みつけていく。その様子は、まるで自分の存在を都市にマーキングしてくように見えて、リスクと紙一重の自己表現は、人間にもともと備わっていた本能かのように感じられるのだ。

ストリートアートの特徴は、作者と作品が切り離されているところにある。つまり、グラフィティを壁に描いていたりするところを警察に見つかってしまうと、もちろん捕まってしまうから、作品を制作するところはほとんど見ることはできない。ストリートアートを目にする人は、作品だけを目にして、あれやこれやと意見することになる。そんなストリートアートの制作現場を目撃できるだけでもこの映画を見る価値はあるが、この映画は、それだけでは終わらない。

映画監督のセンスが絶望的で、ストリートアートのドキュメンタリー映像を撮ることをやめたティエリーは、その後バンクシーに諭され、自らもストリートアートを制作することになる。もともとアパレル店を営んでいたティエリーは、その商売勘からなのか、自らの個展を開き、アート作品を高値で売ることに成功してしまうのだ。映画によれば、ストリートアーティストは自分の作品の方向性やテーマを決めるのに長い下積みを経ることが多いのだそう。しかし、ティエリーは、もともと誰かが制作していたグラフィックのコピーやオマージュで作品を大量に制作し、個展を開いてしまうのだ。そして、周囲のメディアやバンクシーからの推薦文なども手伝い、個展は大盛況となる。

この瞬間、ストリートアートはコンテクストに回収されてしまった。映画の前半では、純粋なドキュメンタリーとしてストリートアートの制作現場が撮られていたが、後半になるに従い、一人の成り上がったストリートアーティストの架空の物語を観ている気分にさせられる映画の構成も、非常に象徴的で面白い。

ストリートアーティスト、もっといえばアートは、純粋な自己表現なのか、それともアートの文脈や経済活動の上で成り立っているものなのか…この議論は根深いが、それを肌で感じることのできる作品、それが「Exit Through the Gift Shop」だ。

 

それでもストリートは僕らのもの

この映画では、Richard Hawleyの「Tonight The Streets Are Ours」という曲が象徴的に使われている。

商業的に成功したティエリーと、自己表現を続ける名もなきストリートアーティスト達。そのバックにこの曲が流れる。

Tonight The Streets Are Ours

どうして心がざわつくのか知ってるかい?

恐れに惑わされてはいけない。

目にするものが自分を変える。

見えないものなどここにはない。

人生はどこからでも始まる。

知っているかい?

今夜、ストリートは僕らのものだと。

心に灯った光に偽りはない。

この曲の歌詞にグッとくるひとなら、「Exit Through the Gift Shop」は一見の価値のある映画だろう。ぜひ、観てみてはいかがだろうか。

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